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三つの棺

「三つの棺(ひつぎ)」ジョン・ディクスン・カー著 三田村 裕訳 ハヤカワ文庫

1935年に書かれた推理小説です。

アガサ・クリスティーなどと同じ時代です。

カーの本は「火刑法廷」についで二作目です。

前回は昔、死刑に処された毒殺魔の女の写真が自分の妻とそっくりであり、妻はその毒殺魔が生き返った姿であるというような疑いを持つ男が主人公で、夫婦の周りに殺人事件が起こります。どちらかというとオカルト色が濃い作品で、最後はやはりというか信じられないといういかにもオカルト的で不気味な終わり方をします。

で、今回の「三つの棺」はどちらかというと純粋な謎解きです。

ハンガリーの刑務所に入れられた三兄弟が医者に頼んで棺の中に入れられて刑務所から離れた荒野に埋められます。長男はくぎ抜きみたいな物を持っており、浅く埋められた棺から脱出します。
そのあと二人の兄弟を棺から出す手はずでしたが、それを見殺しにして逃げてしまいます。
二人の弟は棺の中で生きながら死んでいったと思われたのですが・・・

話は脱出してイギリスで教授となり金持ちになった兄が仲間と会合しているところに死んだはずの一人の弟が現れ復讐を誓うところから始まります。

で、推理小説お決まりの不可能状況下の殺人が二つ起こります。

一つは雪の降る夜、教授に不気味な客が訪れます。その客は教授のいる部屋に入っていきます。
顔は何故か仮面をかぶっており判別できません。
その客は教授のいる部屋のドアを開け帽子をとります。
部屋の中から教授が現れ向かい入れると部屋のドアが閉められて密室状態になります。
その様子は家にいる何人かの者が見ております。
しばらく経つと銃声が聞こえたので、家の者が内側からかかった鍵を何とか壊して中に入ると教授が血を流して瀕死の状況で発見されますが、部屋の中には客の姿が見当たらず窓から逃げたのではと外を見ても雪の上に全く足跡がなく屋根の上もそうです。
犯人は空中を浮遊して逃げたとしか考えられない状況。

もう一つは雪の積もった道の真ん中を教授の弟が歩いています。前方に二人歩いており、少し離れた後方にも警察官がおりました。
すると突然、真ん中を歩いている弟のいる辺りから「二発目はお前だ」という声と共に銃声が聞こえ弟は背中を撃たれた状態で倒れてしまいます。
前後にいた人たちが駆け寄ると拳銃は倒れた弟の少し後方に落ちており、犯人と思われる足跡は全くない状態。銃は銃身が長くて、背中を撃って自殺できる状況でもない。
犯人は浮遊してきて撃ったとしか考えられない状況。
それも姿すら誰もみていない。

探偵はフェル博士という太った人で周りの取り巻きで警部や友達などがおります。

最後にフェル博士がすべてを解明するのは他の推理小説のパターンと同じですが、この小説を特に有名にしているのはそのトリックよりも後半にある「密室の講義」という章があるためらしいです。

この「密室の講義」は確かにこの本の中で一番面白い箇所です。
ここで探偵のフェル博士は「我々は推理小説の中の人物であり、そうでないふりをして読者たちをバカにするわけにはいかないからだ。」と言ってからさまざまな推理小説で行われてきた密室殺人のトリックについて講義をはじめます。しかし、特に有名小説においては種明かしをするわけにはいかないので、それは上手く書かれており、密室トリックのいくつかのパターンを分類してわかりやすく説明してくれます。

推理小説が好きならこれだけでも読む価値はありそうです。

この小説自体の密室殺人はこのパターンを組み合わせた状況とのことですが、かなり凝っておりトリックが複雑で理解しにくい感じもしましたがよくできたトリックでもあると思います。

ただ、難点を挙げますと「火刑法廷」もそうなのですが、どうも読みづらいのです。状況が理解しづらく、登場人物も苗字、名前と所により違う呼び方で語られるので誰が誰だかわからなくなってしまうような所がいくつかありました。
読みづらいので中々進まず。370ページ程を三週間かかってしまいました。

「密室の講義」と他の章で奇術師が奇術の種明かしをいくつか話すところのみわかりやすくすらすらと読める箇所でした。

これが読みやすくわかりやすい内容だったらもっと面白いのにとつくづく感じます。

とりあえず史上名高いといわれる「密室の講義」を読むだけでも価値はあるかもしれません。d0063706_1151222.jpg


カバーは山田維史と書いてありました。「火刑法廷」の表紙絵も同じ人です。
微妙に内容を表している気がします。
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by yururitositarou | 2005-10-27 01:23 |

[魂がふるえるとき]宮本輝編 プラス 貫一&お宮

心に残る物語 日本文学秀作選 [魂がふるえるとき]宮本輝編 文春文庫 読みました。
作家の宮本輝氏が選んだ短編集です。
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表紙は地味ですが見ていると落ち着くデザインです。

昔の本の表紙みたいです。

意図的にそうしたのかもしれません。

ただ、ちょっと堅苦しいような感じもします。







収録内容は以下のとおり。

「玉、砕ける」開高健
「太市」水上勉
「不意の出来事」吉行淳之介
「片腕」川端康成
「蜜柑」永井龍男
「鶴のいた庭」堀田善衛
「サアカスの馬」安岡章太郎
「人妻」井上靖
「もの喰う女」武田泰淳
「虫のいろいろ」尾崎一雄
「幻談」幸田露伴
「ひかげの花」永井荷風、
「有難う」川端康成
「忘れえぬ人々」國木田独歩
「わかれ道」樋口一葉
「外科室」泉鏡花

最後の「外科室」泉鏡花以外は初読です。

「虫のいろいろ」尾崎一雄は会話がユーモラスで、古さを感じません。

「わかれ道」樋口一葉、樋口一葉初めて読みましたが、これが結構いい味わいです。

他のも読みたくなります。

今読むと時代物なのですが書いた当時は現代と考えると不思議な気分。

「ひかげの花」永井荷風、これだけ100ページほどありますが、読ませます。

物語の中にちょくちょく出てくる”自動電話”、いい響きです。

「忘れえぬ人々」國木田独歩、「武蔵野」もそうでしたが、風景描写が本当に上手いです。

空気を感じ心地よいです。こういう風景描写をかけるようになりたいものです。

他にも面白いのが沢山あります。

みな古いものばかりですが、書いた当時の時代の空気を味わえます。

手軽に想像タイムスリップできました。

古い物は独特の言い回しで書かれているので読みづらいと感じるかもしれないのですか、その昔の独特の言い回しは読み進むうちにはまってきて、心地よくなっていきました。

例えば、”美(うる)はしき病者の俤(おもかげ)を一目みるより予は慄然として寒さを感じぬ”や
”「ぢやあ、お押しへ申しませう。」”[「外科室」泉鏡花より抜粋。]等々。

”せう”という書き方いいですね。

いまでいうと”しょう”なのですが、当時”ょ”という小さなひらがながなかったらしく”なかったらしく”とかかないで”なかつたらしく”と書きます。

それをそのままわざと「なかつたらしく」と読むと邪道ですが、心地いいです。それはまあ、私独自の感覚ですが・・・

過去読んだ中でその昔独特の言い回しで、はまったのが「金色夜叉」尾崎紅葉著です。

熱海にある銅像(貫一&お宮)で有名です。が私は本物まだ見たことないかも・・・

貫一が裏切つたお宮を蹴り倒しているシーンです。

本の表紙でも蹴つてます。
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・・・上下巻とも蹴つてますね。(おいおい、何度蹴るんだよう)

で、始めの数十ページは中々進まず、何時間もかけてやつと数十ページを乗り切ると一気に、心地よさを感じてきまして、その世界に引き込まれていきます。

お宮に蹴りを入れているシーンは前半で結構スカツと気持ちいい(私はそういう趣味ではないですが・・・)シーンです。

これを境に貫一が金色夜叉=金力の魔人と化して復讐心を燃やしていきます。

そして、話はだんだんと面白くなります。

「金色夜叉」、結構はまります。

秋の夜長に紅葉の本でもどうでしようか。
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by yururitositarou | 2005-10-07 01:50 |