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今頃と言われそうで、さらに、最近知ったという時代遅れですが、友人から面白いという情報を得た作家の雫井 脩介(しずくい しゅうすけ)の本で 「火の粉」(幻冬舎文庫)を読み終えました。厚い本ですが仕事帰りの電車の中と寝る前に読んで5日間くらいで、読み終えました。これは私としては早い方です。
読んでいて思い出したのはチャーリー叔父さん主演の「疑惑の影」、ティム・ロビンスの「隣人は静かに笑う」、クリント・イーストウッドの「恐怖ノメロディー」、スティーブン・キングの「ミザリー」などの映画です。これは人によっては違うだろといわれるかもしれませんが、とりあえず読んでいて思い出したのが以上の映画です。しかし、このうちのどれかと同じかというとそうでもないのです。でも、雰囲気分類的には同じかもしれません。 ジャンルは正統派サスペンスです。が、前半では三世代家族の生活が良く描かれておりました。 簡潔に話を説明すると裁判官が一家3人殺害の容疑者に決定的証拠がみつからず無罪を言い伝えるところから始まります。 ここでは裁判官が死刑を言い渡す事に対する心の重圧がわかりやすく描かれております。そして、話は引退した裁判官の家庭が舞台になります。 寝たきりの姑の世話を献身的にする裁判官の妻は、感謝の言葉をもらうどころか、たまに訪れて母の世話をする義理の姉(いやな奴ですが実際にいそうです、彼女の登場で前半は面白いです)にいやみを言われ続けます。 息子は結婚して女の子もおりますが、職を持っておらず父と同じ裁判官を目指す事にしますが自分勝手な生活です。(印象としては義理の姉と並ぶムカツク奴) その嫁は子供の世話とおばあさんの世話の手伝いなどで色々気を使う生活をしております。 そんな生活を送る家族の隣の家に裁判官から無罪を言い渡された男が住むようになったところから話は徐々に異様な方向へ進み始めます。 で、話は裁判官の妻とその息子の妻の二人の女性の心情を中心に語られていきます。女性心理の描き方は秀逸です。 隣人が現れてから、不気味な事件とまではいかない出来事が起きはじめ、家族関係は徐々にいびつになっていきます。 怪しい隣人です。 しかし、証拠もありません。 悪い奴なのかそれとも、逆にいい人なのか隣人の様子はいつも爽やかなので検討がつきません。 おばあさんの介護を手伝ってくれたり、そのおばあさんが死んでしまった時、香典に30万包んできたり、気持ち悪い親切さです。過剰な親切やプレゼントをされると心は迷惑、しかし、口ではありがたがるしかない心情。自然さがない不気味さ? 日常でもありそうです。はたしてその男は、そんな性格だから、怪しい奴なのかと疑いますが・・・ 始めの数十ページを過ぎたら一気にその面白さは加速して行き、中断するのが難しいほどです。良くありがちな話のようですが、次はどうなると気になる事が連打してそれが積み重なっていくので、のめりこめさせる点は超一流です。 その点だけでもこの作家は凄いと感じました。 文章も読みやすく、話の進め方も全くと断言できるほど飽きさせません。 さらに驚いたのが、読み終えた後、作家の経歴を見たのですが(それを調べるのも時間が惜しいくらい話を読み進めるのに熱中してしまったため、読んだ後に経歴を知ることになりました)生まれが1968年と記載されておりました。 私よりも1歳だけ年上なのです。 文学界は若い才能にあふれておりますが、どちらかというと純文学が多そうで、こういうサスペンスもので、読みやすい物を書く作家が、そこまで若いのか(いや私がもうそれだけ年なのかも・・・)と驚きとともに、それに比べて自分はなんなんだと落胆してしまいます。 難点をあえて言うとすれば、ラストが少し物足りないというか、ああ、やはりというか、ドスンとした重みがなく、ありがちな印象を受けたことです。じゃあ、お前が書いてみろといわれても書けないですが。 ただ、話としてはこうするしかないかとも納得しました。 しかし、そこまでに行く過程の描き方は恐ろしいほど上手いので、どうしてそうもひきつけるのかと究明したくなりました。 この作家のほかの本も面白いのか気になります。 今は、「火の粉」流れで、家にあった小池真理子の「怪しい隣人」という短編集を読み始めました。 小池真理子はテレビなどで魅力的な女性と感じておりましたが、本は「恋」だけしか読んだ覚えはありません。 当時、これも飽きずに読め、凄く面白いと感じました。 ジャンルは重厚恋愛ドラマ+サスペンスです。 読後の重量感(満腹感)はかなりありました。 「恋」という題名は買うのが恥ずかしいかとおもいますが、騙されたと思って男子諸君(フランス書院ばっかり読んでないで)にも一読をと、お勧めしてもいい本です。 ▲
by yururitositarou
| 2005-06-30 01:53
| 本
今日、いやもう昨日ですが、司馬遼太郎著「義経」を読み終えました。司馬遼太郎の本はいつも読んだ後感動するのですが、今回はなんとなくいつもの読後感と違う印象でした。悪く言えばあまり面白くなかったという事ですが、読みやすさは変わりませんし、上下二巻あるので内容も薄くはありません。が、いつもの司馬作品と違うのです。
これは私の印象ですが、所々手が抜かれているような印象を感じました。何か事情があったのかもと勘ぐってしまいます。 上巻は義経の子供時代で母親と別れ鞍馬山に預けられ、その後、鞍馬山を脱出し奥州へ行って、その後、鎌倉で兄の頼朝と出会うまでを描いて下巻では木曽義仲を討ち取る所から、平家との戦いに入っていきます。戦う事に関しては天才的であるのに政治的な事や人の心を察する事ができない為、見放されていく義経像というのがわかりやすく描かれており、また、平家との戦いの様子が一の谷の合戦から壇ノ浦までが映像として浮かんでくるようにこれもわかりやすく描かれております。これらの点はいいのですが、何かが足りない気がするのです。 それらを列挙してみると その一 日本史のヒーロー的存在である義経がどうも魅力的に描かれていないのです。いつもの司馬遼太郎作品では、主人公は非常に魅力的でそれが作品の面白さの一つとなっております。たとえば幕末が舞台の小説などは、私は先祖が幕府方で会津などにもいた事があるので、官軍はあまり好きに慣れません。特に長州藩などは怖いです。が司馬作品で長州人が主人公の物(花神や世に棲む日日)を読むと主人公達の魅力に引き込まれ何故か長州側にたって読んでいる自分がおり、長州人の考え方なども理解できるような気になります。 しかし、義経はなぜだか魅力がありません。なんとなく自分勝手で人の意見を全く聞かないような人物として描かれております。が、そういう人物だからこそ奇跡的な勝利を数々あげることができたのだろうとも感じました。 その二 義経というと橋の上で弁慶をはぐらかしたり、弁慶の立ち往生など色々ありますが、この本では描かれておりません。多分、うそっぽいからなのでしょう。義経初心者の私としては少し物足りない感じでした。 その三 上巻で少年時の義経(九郎)が京都から逃げて今の岩手県まで苦労しながら逃げていきます。その過程は丁寧に描かれており、面白かったです。その中で、那須与市という同じ年頃の少年と仲良くなります。なんだかんだで事件があって那須与市は追っての兄から義経(九郎)を逃がしてくれます。そのシーンもよく、多分、後々この二人は感動的な再会をするのだろうと余韻を残し読み手の私は期待しておりました。 一部抜粋 「やあ、居たな」 与市はぶなの樹に馬を繋ぎすて、九郎冠者の焚火のそばに寄った。 「好意でひきとめていたのだが、こういうはめになった。詫びる」 「かまわない」 と九郎はいったが、目は涙ぐんでいる。与市の母の家で受けた人の心の温かさが、この若者を涙もろくしていた。生来は甘ったれなのであろう。 「母御に礼もいわずに出てきた。ありがたかったと申し伝えてくれ」 「わぬしは、まこと源家の九郎御曹司なのか。そうならば言葉をあらためねばならぬ」 ~省略~ 「御曹司、なにも餞(はなむけ)できぬ」 与市はまだ生若くて敬語が使えない。が、心だけは敬仰にみちていた。「せめて」と言いながら馬の手綱を解き、九郎に渡した。 所がです、下巻になっても那須与市は出てくる気配がありません。 しかしです。下巻の半ばに近くなった頃、屋島の戦いという義経軍が平家を奇襲する場面がありまして、そこにやっとのこと出てきました。那須与一。 しかし、なんとその描き方はさっぱりしすぎており、私は期待していた分、愕然といたしました。その描き方は、 その間、高名な那須与市の扇ノ的の挿話がある。 で始まる文で、約1ページぐらいの長さ。与市は台詞もなく、文章はニュースのように淡々と事実を伝えるだけで、感動の再会シーンもありませんでした。あくまで客観的に初めて登場したかのように少し突き放した感じで描かれております。それ以降は全く登場いたしません。 それはある意味衝撃でした。 丁寧に描いている暇がないような印象を受けました。 その四 ラストは数ページで頼朝に追われた義経が京都を脱出し奥州の平泉まで逃げて死ぬまでを描いております。弁慶の立ち往生なんて、描いている余裕などありません。 これだけ長い小説なのにラストになっていきなり光のような速さでさっさと終わらせてしまっております。尻つぼみでした。 以上、この司馬版は初心者向きではなく、多分、義経物語を知っている人向きに描かれている印象です。義経はどういう性格であったかについて描く事が中心になっております。 ですから、これから司馬遼太郎を読んでみようという人は一冊目として義経を読む事は避けた方がいいと思います。司馬遼太郎の本の面白さはこんなものだろうと思ってしまうと大変もったいない気がいたします。ですが漢字を多用せず、読みやすく描いている点は 他の作品と同じく、いいかもしれません。 ▲
by yururitositarou
| 2005-06-23 03:13
| 本
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